ソフトウェア無線はオープンな無線になり得るか?

ソフトウェア無線 (SDR) は、次なる目玉として期待され、控え室で待機するうちに、すでに白髪交じりのベテランの域に達しています。軍用無線、電子妨害手段、小型セル基地局への展開が一部に見られるものの、大きく開花するチャンスをうかがったまま、素晴らしいアイデアの状態で止まっています。

しかし、RF 半導体や計算アクセラレータの進歩によって、SDR ハードウェアのコストの大幅な低下とソフトウェア部分の簡素化が進み、その結果、従来より低価格で新たな応用が始まろうとしています。そうした機会は、現在の次なる目玉と目される IoT (モノのインターネット) から、発展途上国向けの低コストでリコンフィギュレーション可能な無線、ホビイストのためのオープン・プラットフォームまで多岐にわたります。

そうした進歩は、SDR アーキテクチャにおける主要なコスト・ポイントをターゲットにしています。この記事では、ほとんどの SDR 実装に共通する要素を取り上げ、技術の変化によってどのような影響を受けているかを見ていきます。

ベースバンドへ

エンドユーザーの視点から見て、SDR システムの最初の主要ブロックはプログラマブル・ベースバンド・プロセッサです。このブロックは実際、全体的な概念の発端となった部分です。この内部にある計算回路は、送信データからベースバンド周波数範囲の変調波形への変換と、デジタル化された入射ベースバンド波形から受信データへの変換に必要な機能を実行します。

SDR の概念は簡単です。デジタル・データを処理するだけであれば、固定ハードウェアの代わりに DSP プロセッサなどのプログラマブル・プロセッサ上で行えばよく、プロセッサ上で実行するソフトウェアを変更するだけで、フィルタ、変調方式、誤り訂正アルゴリズム、パケット/ストリーム・プロトコルの変更が可能、というものです。

これは説得力のある概念ですが、やや楽観的すぎることがわかっています。複雑化が進むアルゴリズム、データ・レート、ベースバンド周波数の要求を満たすことができるプログラマブル・エンジンは、最高速の DSP チップのバンクやハイエンド FPGA のように極めて強力である必要があります。こうした現実から、ベースバンド・プロセッサのコスト、機動性、およびプログラミングの容易性は高止まりしています。

RF へ

SDR の概念における課題は、ベースバンド・プロセッサにとどまりません。信号チェーンにおける次のステップはデータ変換です。送信機の場合はデジタル-アナログ、受信機の場合はアナログ-デジタルで、それにアナログ・フィルタが付随します。その次に、ベースバンドと RF の間で信号をシフトするアップコンバータ/ダウンコンバータ、さらなるフィルタ、そしてアンプが必要です。送信機側にはプリドライバがおそらく必要であり、受信機側には低ノイズ・アンプ (LNA) が必ず必要です。最後に、通常は別のプロセス・テクノロジで別個のチップに実装されるコンポーネントとして、パワー・アンプ (PA)、アンテナ・フィルタ、およびアンテナ・スイッチがあります。

これらの RF アナログ/ミックスド・シグナル・コンポーネントの問題は、本質的にプログラマブルでなく、通常は固定機能の RF アナログ・コンポーネントとして実装されることです。つまり、SDR のベースバンド機能の変更はソフトウェアの変更によって可能だとしても、無線の搬送周波数や帯域幅を変更するにはハードウェア・コンポーネントの交換または重複実装が必要ということです。

賢い設計者は、同調発振器、調整フィルタ、可変ゲイン・アンプなど、負荷抵抗器によって変更してアナログ・パスを操作することが可能なソリューションを考案しました。しかし、そうした手法は通常、限られた範囲内でしか動作せず、広範囲にわたって調整可能なアナログ・コンポーネントを実現するための帯域幅や線形性の確保は、コスト面でも消費電力の面でも非常に高く付きました。そのため、連続同調マルチバンド SDR は、局部発振器からアンテナに至るまでを複数の RF 信号パスで構成する必要がありそうでした。

この制約は、大量生産される可能性のある多くのアプリケーションにコスト、スペース、および消費電力の問題をもたらしました。また、コグニティブ無線のように、広帯域内のどこで信号が発生するかわからない特殊なアプリケーションの場合、複数の RF チェーンの必要性が障害となる可能性がありました。

膨大なベースバンド計算負荷や複数の RF トランシーバの課題があるにもかかわらず、SDR が有効であることは確かでした。さまざまな単機能無線をスーツケースまたはラックに満載するしか代替手段がない、先進国における高価値の防衛機器や緊急救援アプリケーションには有効でした。また、プロトコル、変調方式、およびバンドの組み合わせが限られ、事前にわかっている商用アプリケーションにも有効でした。しかし、その他の膨大な機会への対応はなおざりになっていました。

コストの問題への取り組み

低コスト SDR プラットフォームが登場すれば、潜在的に大きな市場が広がることは間違いありません。これを踏まえ、業界はコストの問題に対して二面攻撃を開始しています。1 つはよりコスト効果の高いプログラマブル・ベースバンド・プロセッサ実装の追求であり、もう 1 つはコンフィギュレーション可能な統合広帯域 RF トランシーバの追求です。

2 つのうち、ベースバンドの問題の方が対処しやすいことがわかっています。後に Mindspeed Technologies 社に買収され、インテルの手に渡った PicoChip 社のようなベンチャー企業による初期の取り組みにより、小型セル基地局のベースバンド処理であれば、単純な DSP エンジンの中規模アレイで非常に効率よく支援できることが実証されています。

さらに最近では、別の 2 つのアーキテクチャ・アプローチで良好な結果が得られており、いずれも汎用 CPU コアを計算アクセラレータで拡張するという考え方に基づいています。変調方式とプロトコルの範囲が比較的限られた SDR の場合、通信用アクセラレータを備えたハイエンド・マイクロコントローラを使用すれば、驚異的な性能が得られることがわかっています。例えば、Freescale QorIQ MCU による LTE ベースバンドの実装が可能です。

デザイン・チームは、ベースバンド要件を先験的な制約がない場合、同じアーキテクチャを基礎としながら、アクセラレータと共に FPGA に実装してきました。ありがたいことに、プロセスの微細化とそれに伴う集積度の向上により、内蔵 CPU コアの有無にかかわらず、手頃な価格の小型システム FPGA にそうしたデザインを実装することが可能になっています。

Lime Microsystems 社 CEO の Ebrahim Bushehri 氏は、「例えば、一連の OFDM LTE 要件をサポートする必要がある場合、ベースバンド・プロセッサはプロトコル・スタックのオフロードだけでなく、おそらく高速フーリエ変換やターボ・コーディングのアクセラレーションも必要です。実装する機能にもよりますが、汎用 DSP、FPGA、または ASIC SoC への実装が可能です。FPGA に実装すれば、さまざまなエア・インタフェースの実験や検討を行う柔軟性が得られるほか、データ・コンバータ用の適切なハードウェア・インタフェースの確保が可能です」と説明します。

トランシーバへの取り組み

ソフトウェア・ベースバンドについては、設計作業と機能範囲のトレードオフにおいてシステム・アーキテクトに十分な柔軟性をもたらすソリューションがあります。しかし、トランシーバの問題が大きな課題として残ります。カバーするバンドごとに別個の RF 信号チェーンが必要である以上、低コストの実現は不可能だからです。

理想的には、アンテナとベースバンド・インタフェースの間の信号パス全体について、十分な広帯域特性と帯域全体にわたる線形性を確保すべきです。そうすれば、ミキサをドライブする局部発振器を設定し、いくつかの RF フィルタ・パラメータを調整して必要な選択度を得るだけで、適切な RF スペクトル内の「窓」を自由に選択することが可能になります。まだ実現されていないものの、この理想に近づきつつあります。

Bushehri 氏は、考慮しなければならない重要な信号パス・コンポーネントを挙げています (図 2)。送信側では、ベースバンド・デジタル-アナログ・コンバータ (DAC)、可変ゲイン・アンプ (VGA)、調整ローパス・フィルタ、PLL (Phase-Locked Loop) と局部発振器を備えた広帯域ミキサ、2 番目の VGA、PA、およびアンテナ・スイッチがあります。ほとんどの変調方式の場合、ミキサまでのすべてのコンポーネントは、一方を同相 (I) 信号用、もう一方を直交位相 (Q) 信号用として二重化しなければなりません。受信パスでは、アンテナ・スイッチから RF フィルタ、LNA、ミキサ・アセンブリの後、VGA、ローパス・フィルタ、および ADC で構成される I/Q パスがあります。

特定用途向けのデザインの場合、これらのパスの要素はすべてデザイン・センターを中心に最適化されます。また、密接な関係にある少数の周波数および変調方式での運用を目的とする SDR も同様の最適化が可能です。しかし、環境の変化に適応可能なオープン・エンド SDR デザインは、RF ハードウェアに対する要求レベルがはるかに高くなるはずです。

幸い、CMOS RF プロセスの向上やデジタル支援アナログ/RF デザインの高度化は、これらのニーズを満たす上で大きな役割を果たしていると Bushehri 氏は語り、そうした例として、Lime 社が最近発表した LMS7002M フィールド・プログラマブル RF トランシーバ IC デバイスを挙げています。この 65nm RF CMOS チップは、2 x 2 の多重入力多重出力 (MIMO) ソフトウェア・トランシーバの 50 MHz ~ 3.8 GHz 信号パスのほとんどを搭載しています (図 1)。

1. Lime 社の新しいフィールド・コンフィギュレーション可能 RF/ベースバンド・トランシーバ IC は、搬送周波数、帯域幅、および回路内のフィルタ特性のプログラミングが可能

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個々のブロックに対する要求は、決して低くありません。PLL、ミキサ、RF VGA、および LNA は、基本的に 3.75 GHz の帯域幅全体にわたって低ノイズで、かつマルチキャリア動作を含む厳しいユース・モデルをサポートするのに十分な線形性を備えていなければならず、Bushehri 氏も「RF 回路デザインは非常に挑戦的です」と認めています。先進的なプロセス・テクノロジと強力なデザイン・スキルをもってしても、単一の広帯域コンポーネントはまだ実現できません。このチップでは、複数の電圧制御発振器 (VCO) を使用して周波数範囲をカバーしていますが、PLL は送信用と受信用に各 1 個のみです。

トランシーバ・デザインのうち、ベースバンド周波数で動作する部分もそれなりに要求が厳しく、Lime 社が想定するアプリケーション範囲をサポートするためには、コンバータ、VGA、およびプログラマブル・フィルタからなるオンチップ・ベースバンド・ブロックは、100 kHz ~ 108 MHz の帯域幅をサポートしなければなりません。これは、特に低消費電力を要件に加えた場合、とりわけプログラマブル・ローパス・フィルタと 12 ビット・データ・コンバータにとって、決して容易な仕様ではありません。

その他にも、製品としての可能性を広げるためのさまざまな対策が施されています。ほとんどのファンクション・ブロックはバイパス可能なため、必要に応じて外部コンポーネントを信号パスに挿入し、代用することが可能です。また、ベースバンド・デジタル・ハードウェアから高性能デジタル・フィルタをオフロードするために、乗累算器ブロックがベースバンド・パスのデジタル側に搭載されているほか、コントロール・ソフトウェアと内部レジスタの間の抽象化レベルを上げるために 8051 MCU コアも内蔵しています。

外部コンポーネント

広帯域プログラマブル・トランシーバは、多くのデザイン課題を解決しますが、RF アンテナ・フィルタ、スイッチ、および PA の問題が残されています。その中で最も明らかな問題は PA です。しかし、トランシーバの帯域幅に匹敵する広帯域 PA が市販されていることに加え、チップが複数のドライバ出力を備えていることから、用途を限定すれば、異なるバンドに同調させた複数の PA をユーザーが接続することも可能、と Bushehri 氏は語ります。

アンテナ・スイッチも、妥当な挿入損失と分離性能で 3.8 GHz に近づけることが可能な製品があります。おそらく、ユーザーに残された大きな課題は、必要な受信機選択度を実現するための同調 RF フィルタを開発することです。

総合すると、DSP アクセラレーションを備えたプログラマブル・ベースバンド・プロセッサ、プログラマブル RF 信号パス、および外部コンポーネントの慎重な選択により、柔軟性の高い SDR を魅力あるコストで小型ボードに実装することが可能になります。その結果、システム開発者にとって興味深い可能性が広がります。

少なくとも、メーカーは単一のハードウェア・デザインにより、おそらく部品バリエーションをいくつか用意するだけで、複数のワイヤレス市場 (例えば、各種 IoT ハブ) に対応することが可能になります。さらに興味深いことに、フェムトセルやホワイト・スペース・トランシーバなど、素早く初期化して幅広い既知のフィールド環境に適応可能な製品の開発も可能になります。

さらに極論を言えば、広い周波数帯域と使用範囲にわたって信号をスキャン、解釈、応答できる完全なコグニティブ無線の低価格化も実現可能です。そうすれば、資本が貴重で、サービスを必要とする場所が離れていて、インフラがまったく整っていないかもしれない発展途上国の緊急救援隊やサービス・プロバイダの手にも届くようになり、発展途上世界の置かれた現状を根底から打破する可能性があります。

低価格化は、コグニティブ無線の本格的なホビイスト市場の出現にもつながるかもしれません。その結果、コグニティブ無線の概念に対する設計者の理解や知識が深まると同時に、アマチュア無線やエンベデッド・コンピューティング、ロボット工学など、これまでの技術の進歩を促進してきたようなオープン・システム・イノベーションが刺激される可能性があります。コグニティブ無線に対するオープン・コミュニティの影響は明らかではありませんが、非常に大きなものとなり得ます。


CATEGORIES : All/ AUTHOR : Ron Wilson

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